ウメバチソウの小さな生活史
今回はウメバチソウ(梅鉢草)についてちょっと書いてみようと思います。
ウメバチソウは夏の終わりから秋の山を歩いているとよく見かけます。
ちょっと湿ったようなところに多い印象かも知れません。
登山者からは一括りにウメバチソウと呼ばれることが多いと思いますが、そんなウメバチソウ、じつはウメバチソウと"コ"の付くコウメバチソウが存在します。
※他にもエゾウメバチソウ、ヤクシマウメバチソウなどがありますが、とりあえず本州の山で良く見かけるのはこの2種。ヒメウメバチソウは明らかに趣きが違うので除外です。
そんなことは置いておいて花を見てみましょう。
これは本日開花したウメバチソウです。
上の写真で見られた、玉や雄しべが見えていますね。
雄しべが5本あって全てが同じように折りたたまれている様子が分かると思います。
では翌日へ。
2日目、花弁が開ききりました。
小さな玉の着いた部分もしっかり開いています。
なんだかカエルの手のようにも見えますね、緑だし。
この部分にもちゃんと名前があって「仮雄蕊」と言います。
読みは「かりおしべ・かりゆうずい」です。
退化して花粉を作らなくなった雄しべのことをこう呼びます。
ウメバチソウの場合はこの部分が蜜を出したり、その色で虫をおびき寄せたりしていると思われますが…
それはさておき、クリーム色の葯に注目。
上(12時方向)の1本がなんか少し列を乱して立ち上がっているの分かりますか?
では翌日にいってみましょう。
3日目。
なんと1つの雄しべがグッと右に伸びました!(3~4時方向)
一方残った4つの葯のうちの1時方向にあるひとつがまた立ち上がっているの分かりますよね。
※全ての写真は同じ個体ではありませんので、方向はまちまちです。
で、更に翌日。開花から4日目です。
延びている雄しべが2本、既に先端の葯は脱落してしまっていますね。
立ち上がっている雄しべが1本(9時方向)。
相変わらず縮こまっているのが2本(5時と7時方向)。
なんか法則が分かってきましたね。
5日目。
更にもう一本伸びました。
立ち上がって→伸びる、立ち上がって→伸びる
を順繰りに行っています。
6日目。
ちょっと写真がボケていますが…
1本を残して雄しべがみんな伸びた様子が分かると思います。
こうして1日に1本ずつ雄しべが伸びて(開いて)いくんですねー。
つまりこうしてよく見れば開花してからの日数が分かるということです。
これでウメバチソウの年齢(開花日数)当てクイズはばっちりですね。
そして7日目以降。
全部雄しべが開いてしまったので、正確な日数は分かりませんが…
中心部分が大きく膨らんでいるのが分かると思います。
ちょっと4~6日目と見比べてみて下さい。
膨らんできた部分は子房(しぼう)と言います。
この時には既に全ての雄しべの葯は脱落してしまっています。
更に子房の先端から花みたいなものが出ていますね、これが柱頭(ちゅうとう)。
ここで花粉を受けて受粉します。
子房と柱頭を合わせて雌蕊(めしべ・しずい)と言います。
こうして雄しべが伸びて葯が開く(開葯:かいやく)する時期と、雌しべが受粉できる時期をずらして自家受粉を避けているんですねー。
で、しばらくすると花弁が脱落し、子房はこうしてはっきりと緑になり果実になります。
だいぶ膨らんでいますので、無事に受粉して結実できたようです。
ちなみにこの画像でも残っている仮雄蕊の先端の白や黄色の玉、これは腺体(せんたい)と言う部分なのですが、1つの仮雄蕊あたりの腺体の数が12~22だとウメバチソウ、7~11だとコウメバチソウとのこと。
例えばひとつ上の画像は大体15ほどの腺体が着いているので、ウメバチソウ。
4つ上(4日目)の画像は10~11なので、コウメバチソウとなります。
正直どっちだか良く分からないのもありましたが標高の高いところの小さめな個体はコウメバチソウでほぼ間違いないように思います。
※ほとんどの画像は2,200~2,500m付近で撮影しました。それに対してひとつ上の明らかなウメバチソウは1,750m付近です。地域はどちらも北アルプスです。
こんな風にウメバチソウひとつとってもそのわずか数ミリ数センチの世界で、生存戦略が繰り広げられています。
植物の数だけ戦略があり生活史があります。まだまだ解明されていないこともそれこそ山ほどあるとのこと。
不思議や驚きがまだまだ潜んでいると思うと、人の一生ではとても楽しみ切れない、楽しみだらけです。
登山中になかなかそんな時間も無いと思いますが、もしこの内容を覚えていてお時間に少し余裕があったらウメバチソウの年齢を当てて、腺体の数を数えてみて下さい。
一輪のウメバチソウをきっかけに新たな山や自然の楽しみ方と出会えるかも知れません。
今の時期少し高い山に行けば簡単に出会える花ですのでぜひ。