奥秩父縦走 その3
笠取小屋での夜はすぐそばで鹿の鳴き声がして何度か起こされましたが、自然の中にいるってこういうこと。
テント場から10分ほど歩いて雁峠分岐に戻ってきました。
今日は濃い霧が立ち込めてます。
道標が指す 将監峠 雲取山 方面 に進みます。
急登を登り切って笠取山の西側の山頂。
素晴らしい展望が広がるピークなのですが、真っ白で残念。
夜が明けてきました。
水干との分岐まで降りると懸念していた通り朝露の着いた笹の登山道です。
ものの数分で靴下までビショビショになります。
防水シューズじゃないので仕方ない。
それにしても夜明け直後の森の青さ。
太陽が上がってきたようです。
陽が上がる方をバックにすると薄く暖色がかかったこんな色で…。
尾根を挟んだ逆側は寒色系のこんな色。
朝ならではの面白い森の表情です。
さぁ完全に陽が上がり、気持ちの良い朝になりました。
明るくなると「さぁ今日も歩くぞー」という気持ちになりますが、すでにコースタイムの2時間分は歩いています。
日の出から陽が上がりきるまでは景色もどんどん変化し素晴らしい時間、変化を楽しみながら歩いているうちに距離も自然と延ばせる。
気分的にも、行程的にも朝早く出発することのメリットは多いと思います。夏は午後の雷雨もありますからね。
唐松尾山手前の連続する小ピークのひとつより。
空気もスッキリして、富士山と大菩薩が望めました。
写真中央の大菩薩嶺から左側(南側)に延びる小金沢連嶺~滝子山もしばらく行っていないので、歩きたいなぁと思いながら眺めていました。
展望もなくパッとしない、実に地味な山頂ですがこの辺りを歩くのであれば無視できない山のひとつです。
笠取山から雲取山までの主稜線は全てが東京都水道局の水道水源林となっており、つまり東京の水瓶となる森です。
その源頭エリアのボスがここ多摩川水系最高峰 唐松尾山です。
ちなみに先ほど分岐で出てきた「水干(みずひ)」というのは、多摩川の源頭。多摩川138kmの最初の一滴が発するところです。
これが現在に至るまで大切な水源となっている多摩川、また江戸の町の発展を支えた玉川上水に繋がっていると思うと押さえておきたいスポット、笠取小屋から水干までは歩いて10分ちょっとです。
(といいつつ今回は笠取山山頂を踏むのでパスしました。)
立ち枯れに富士山。
今更ながら日本の山でも群を抜いてきれいな山です。
唐松尾山からは基本的に尾根の南をトラバースする道になります。修繕の済んだ大規模な崩壊地などを越えてたどり着いたのは山の神土。
ここに来るとなぜか帰ってきたなぁと感じる自分がいます。
とにかくここは訪れた回数が多い!というのもここから右奥の方に進むと和名倉山(この道標だと白石山)への登山道になります。
笹の繁り具合がいい感じですよね。
この和名倉山は奥秩父でも一番好きな山で、ということは日本で一番好きな山なのかも知れません。(聞かれれば好きな山はころころ変わりますが…)
ガイドした回数もかなり多く、はじめての個人ガイド依頼で登ったのも和名倉山でした。
久々の来訪だったので勝手にしみじみした気持ちになっている自分がいます。
将監峠から将監小屋への下り。
防火帯なので大きな木はありません。
ただ、はじめてここに来た時から十数年。
ここまで笹が繁っているのは初めてです…。
今後どうなるのだろう。
昨年までは土日営業の小屋で、平日も玄関は解放され隣の自炊小屋も自由に使えたのですが、今年は新型コロナウィルス対策でどちらも閉鎖されています。
ここの小屋泊は『雲取山~笠取山縦走』や『和名倉山縦走』という登山ツアー会社のツアーガイドで何度も泊まりました。
またいつか気風の良い小屋番の田辺さんとお話しがしたいです。
田辺さんのお父さんである先代とは本当に登山をはじめた頃に他に誰もいないような静かな日に訪れて、テントの受付をするときにいろいろと奥秩父の話を聞かせていただいたことがあり、とても懐かしい思い出です。
大弛小屋、甲武信小屋と並んでここも山小屋らしい大好きな小屋です。
将監小屋が好きな場所である理由のひとつはこれ!
この水です。
この日冷たい澄みきった水がものすごい勢いで流れています。
富士見平小屋、大弛小屋、雁坂小屋、笠取小屋、そしてここ将監小屋などの、稜線にわりと近いにもかかわらずこの水の豊富さは他の山域には無い素晴らしい特徴だと思っています。
さぁ将監小屋の水でリフレッシュして再出発です。
バイケイソウの花を一輪アップで。
前のブログで書いた甲武信ヶ岳のミヤマシャジンと似ていますが、これはソバナ。
花の特徴うんぬんよりも咲いている場所で判断できます。
歩きやすい巻道をさくさく進むと、大ダルと呼ばれる開けた草地が出てきました。ここで一瞬だけ稜線に乗ります。
日当たりも良いので、朝露で濡れた靴や靴下。
汗で濡れた衣類やザックを干します。
干しながら30分ぐらいぼーっとしてました。
山でのこういう時間も好きです。
仕事中はさすがに無理ですけどね。
ここから飛龍山の足元の禿岩までが苔が豊富なエリアです。
オサバグサ、バイカオウレンの葉が混じる色とりどりの苔。
岩に張り付くのは水分を含んだ瑞々しい苔。
ミズゴケは名前の通り多くの水分を蓄えています。
さわるとスポンジの如く水を吸っているのがわかります。
オサバグサの葉が多い。
ここも花の咲く時期にまた来てみたいですね。
亜高山の針葉樹の森に苔。
ここだけでも来る価値があります。
さぁ飛龍山の展望台 禿岩まできました。
遠くに横長に伸びるのが南アルプス。
富士山は雲がかかってしまいました。
日当たり良すぎて暑くていられないので数秒で退散。
縦走路に戻りすぐそばの飛龍権現。
ここは見ての通り多方面への分岐点です。
歩いてきた笠取山方面。
これから進む雲取山方面。
前飛龍を経て丹波にも降りられます。
文字が見えない方が飛龍山山頂方面。
いままで大体ここは飛龍山山頂経由で雲取山方面へ向かっていたので、巻道で次の目的地である北天のタルに向かってみます。
北天のタルを通過し、少し場面が飛んで狼平。
ここまでの間は笹がだいぶ繁っていて、笹藪漕ぎの一歩手前のような感じのところもありました。
登山道はほとんどがトラバース道なので、山側の笹をしっかり足で押しつけながら歩かないと谷側(南側)に寄り過ぎて滑落しかねません。わりと危ない崖になっているところもあります。
ここは行政区でいうと丹波山村(将監峠から七ツ石山まで)にあたります。
丹波山村は狼を「山の神の使い」として崇めてきました。
狼が神格化されたのは、畑を荒らす鹿や猪を山で狩ってくれて村に降ろさなかった、結果的に畑を守ってくれていたということが理由なのだそうです。
ちなみに七ツ石山のそばにある七ツ石神社は狼を祀った神社です。
鹿の害が深刻化しているいまこそ必要なのは狼のような動物なのかも知れません。
ただ現存したら迂闊にテント泊などできませんね。
狼平から緩い下りの笹の道を進むと三条ダルミに出ました。
今回の縦走ではじめて少し怪しい天気となってきました。
正面に見える斜面を登り切ればとりあえず奥秩父のメインルートの縦走のゴール地点、雲取山。
登りに取り付いて20分ほどすると、いよいよ降ってきました。
なんとか逃げ切れるかなーと思っていたのですが山は甘くありません。
観念してさっさとレインウェアとザックカバーをして樹林で待機、雷に備えます。夏の雷雨に淡い期待は抱かない方がいい。
待っても待っても雨が強弱を繰り返すだけで雷は鳴りません。
空はもちろん見えないし、電波も入らないのでレーダーも見れません。
すぐ上が山梨県側の山頂で開けているのでなんとなく樹林から出る気がしません。
でも結局30分ほど待っても状況が変わらないので、とりあえず雲取山山頂まで行くことに。
途中の雲取山避難小屋で5,6人の登山者が待機していましたが、そこはいったん素通り。
で、雲取山山頂に登頂。誰もいなくていいんだけど、なんだか落ち着かない気持ちで縦走完了。
雲取山は三角点の山。
これは現行の国土地理院による一等三角点その名も「雲取山」。
一等三角点というのは日本中に約1000点ありますがそのうちの1つです。
柱石が欠けたところは補修もされて、周囲もかなり補強がされています。
なお柱石にダメージを与えると法律で
「二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する」
らしいのでご注意を。椅子ではありません。
こちらも山頂にある三角点。現行の一等三角点とはだいぶ趣が違う、というかデカイ。
これは原三角測點(点)という現行の三角点が設置される前、明治11年~16年頃にかけて関東と中部地方に約50点ほど内務省地理局により設置されたものです。
その後測量業務が参謀本部に移管し、ほとんどが現行の一等三角点に置き換えられましたが、ここ雲取山では残されて今に至ります。
なお原三角測點はこれの他に日本あと2つしか現存していません。全部でたったの3つです。
ほとんどの人が見向きもせず、時として椅子と化している不憫な存在ですが、極めて貴重なものなのです。
山頂を後にし避難小屋方向に戻ろうとすると、いよいよ来ました。雷です。しかも進行方向(東の空)でゴロゴロ鳴ってるし…。
いつ豪雨になるか雷雲が頭上に来るかわからないので、雲取山山頂からは最短距離の鴨沢にささっと下山します。
途中まだ解体作業が始まらない奥多摩小屋を「これで見るのも最後かな」という気持ちで覗いてみる。ゴミがまとめられていました。
五十人平のテント場に復活の話も出ているようで、ぜひいい方向に決まって欲しいと願います。
小雲取山の辺りでいったんざっと強く降った雨も数分で止み、安心して雨具脱いでそのまた数分後、ブナ坂の先の巻道で突如ものすごい豪雨になり…。登山道は一瞬で泥の川になりました。
本体はこっちだったか…。雨具はザックカバーに挟んでいたのですぐ着ましたが、意味あんのかな?ぐらいの豪雨。
最初はなんとなく川や水溜まりを避けていたけど、既に靴下まで完全に浸水していることに気づき、開き直って逆にど真ん中をバシャバシャいきます。
舗装路と合流する登山口まで降りてくると、去年まであったベニヤの楽しげな看板がなくなっていました。
もう一度樹林に入り、鴨沢バス停の上の舗装路に出た頃にはすっかり雨も止んで青空が。
雨装備を脱いだり濡れた靴下を履き替えたりしていると、陽も傾きはじめて雲がピンク色に染まってきました。
久々にしっかり歩いた充実感があります。
最後の雷雨はそこまでの行程が順調で快適過ぎたこともあり、印象に残るいいアクセントでした。
山は優しいだけでは終わらないぞと。
久々の仕事以外での奥秩父主脈の縦走。
たった3日間でしたが、たくさんの場面が思い出され、すごく長い旅をしたようにも感じます。
印象深い景色や、人との会話が多かったからでしょうか。
何か目的があるわけでもなく。
何かを得るためでもなく。
特別見たい景色があるわけでもなく。
拘るほど見てみたい植物などもなく。
結局なんで足が向くのか分からないけど、自由に選べる時に悩みもせずに第一候補にあがってくる。
僕にとって奥秩父の山々は少し特異な存在なのかなと思います。
こういう山には特別な何かや非日常などを求める訳でもなく、今後も日常の一部として通い続けるのだと思います。